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静岡地方裁判所 昭和49年(行ウ)10号 判決 1977年11月29日

原告 松田栄夫

被告 静岡県知事

訴訟代理人 成田信子 高橋廣 笹木岩男 三谷和久 ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和四九年四月一九日付でなした国立公園特別地域内工作物の新築を許可しない旨の処分(四八観第一九-一一二九号)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四八年一〇月一八日、被告に対し、静岡県賀茂郡南伊豆町手石字浜の上一、二〇三番地の土地(以下「本件土地」という。)上に二階建居宅(以下「本件建物」という。)を建築するべく、自然公園法一七条三項一号の規定により、富士箱根伊豆国立公園特別地域内工作物の新築許可申請(以下「本件申請」という。)をした。

2  被告は、昭和四九年四月一九日、原告に対し、本件申請を許可すると右国立公園特別地域の風致・景観を維持するうえで重大な支障があるとの理由により、同日付静岡県指令四八観第一九-一一二九号をもつて、本件申請を不許可とする処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  原告は、本件処分を不服として、昭和四九年五月二九日、環境庁長官に対し審査請求をしたが、その後三箇月を経過するも未だ裁決がない。

4  しかし、本件処分は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

三  被告の主張(本件処分の適法性について)

1(一)国立公園は、わが国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地であつて環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞いたうえ区域を定めて指定するものであるが(自然公園法二条二号。以下括弧内では単に「法」という。)これを指定する国が土地の権利を取得することを要件としない地域制の公園であるため、国立公園内における風致・景観を維持するうえで支障のある一定の行為を禁止または制限する必要があるところ、国立公園は比較的広大な面積を占めていて地域により風景の美しさにおいて程度上の差異があるから、これに応じて自然の風景地を保護する度合い、即ち行為規制の度合いに強弱の差を設ける必要が生ずる。そこで自然公園法は、公園計画により、国立公園の区域を特別保護地区(法一八条)、特別地域(特別保護地区を除く。以下同じ。)(法一七条)および普通地域(法二〇条)に区分して、これに相応した保護を図つている。

(二)  特別保護地区は、自然公園の精粋ともいうべき景観を有している地域であつて、これを永遠に維持するため量も強力な規制を課することが必要な一定地域であり、特別地域は、特別保護地区の次に自然を保護する必要性のある地域であつて、風致を維持するために設けられたものであり、風致維持の必要性の度合いから、さらに第一種特別地域、第二種特別地域および第三種特別地域に区分される(自然公園法施行規則九条の二)。第一種特別地域は、特別地域のうちで風致維持の必要性が最も高いところで、特別保護地区に次いで核心的な風景地が存する地域であつて、現在の景観を極力保護することが必要であり、公園計画で決定した施設以外の工作物の設置は原則として許可しない取扱いである。

(三)  普通地域は、特別地域に含まれない地域であつて、特別地域ほど行為制限のなされないところである。

四  本件土地は、昭和三〇年三月一五日、第一種特別地域に指定されたところ、昭和四八年一月二三日、原告を代表取締役とする訴外秋本商事株式会社(同年一二月三日、株式会社松田商会と商号変更された。)が売買によりこれを取得したものである。

2 ところで、国立公園特別地域内工作物の新築等を許可するかどうかの判断基準は、自然公園法の規定自体からは必ずしも明らかでないが、同法が「すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もつて国民の保健、休養及び教化に資すること」をその目的としていること(法一条)、同法一七条三項の許可には、国立公園の風致または景観を保護するために必要な限度において、条件を附することができること(法一九条)および私権との調整規定(法三条、三五条)などに鑑みると、右許可・不許可の基準は、申請にかかる行為が当該特別地域における風致・景観の維持に支障を与えるものであるか否かであるというべきであり、行政庁は、当該地域の地形等の自然的条件と工作物の規模、構造、外観等との相関関係において、当該申請にかかる行為およびこれに必然的に伴う資材運搬用道路・生活用道路の開設、水道及び光熱補給のための関連行為が、その地域における風致・景観の維持に支障を与えるか否かを自然公園法の趣旨に則り総合的に判断するものである。

3 そして、右基準による行政庁の判断は、その裁量に委ねられるべきものであるところ、被告のなした本件処分は、以下述べるとおり、裁量権の範囲内のものであり、適法である。

(一)  本件申請地は、主要地方道下田、石室・松崎線の海側にあり、急峻な小高い山並みが岬状の形態をなす通称「阿弥陀山」と呼ばれているところにあり、阿弥陀山一帯の地域(以下「本件地域」という。)は、弓ケ浜の海岸線の美観と相侯つて卓越した景観を有し、富士箱根伊豆国立公園第一種特別地域に指定されているばかりか、文化財保護法に基づき名勝「伊豆西南海岸」にも指定され、阿弥陀山にある「手石の弥陀の岩屋」は、同法によつて天然記念物に指定されている。本件地域は、ウバメガシ、トベラ、ヤブツバキなどの樹高〇・五メートルないし三メートルの矮性化した暖地性植生(常緑樹)の群落と起状の激しい波蝕崖岬状の地形、天然の奇観である汐吹および天然記念物「手石の弥陀の岩屋」などで形成される伊豆地方特有の自然の風致・景観をほぼ原始的に維持しており、その風致・景観は富士箱根伊豆国立公園伊豆地域の核心的なものとして広く一般に認められているところであり、現在の風致・景観は将来にわたつて維持される必要性の高いものである。

(二)  本件申請は、阿弥陀山の突端近くの地形勾配二五ないし三〇度の東向きの急斜面に床面積延約二三〇平方メートル、高さ約七メートル、鉄骨造りの二階建居宅を新築しようとするものであり、その敷地を造成するためには樹木を約三〇〇平方メートル伐採し、表土を掘削することが必要となる。

(三)  本件申請地に本件建物を建築する場合、右申請地に到達しうる生活用道路を設置しなければならないところ、本件申請地一帯の地形は、急斜面であり、人工の加えられていない原始の状態であるから、ここに到達する道路を開設するのは極めて困難である。仮に道路の開設が土木技術的に可能であるとしても、本件建物の建築に伴い、生活用道路のほか資材の運搬用道路の設置や水道および光熱補給のための行為が必要となり、これらの自然改変行為は本件地域の自然の原始性を害し、現在の風致・景観の維持に重大な支障を与えるものである。

(四)  原告は、本件建物を老後病弱な妻とともに別荘として使用するというのであるが、別荘は生活必需的なものとはいえないほか、本件地域は、その地形等の自然的条件からみて、生活物質の搬入に困難を来たすなど生活上の不便が大きく、病弱な者や老人が居住するのに適した場所であるということはできない。

以上のとおり、本件地域の風致・景観の保護の必要性は高いものであるところ、本件申請を許可した場合には、本件建物の構造・外観・面積・立地位置からして、本件建物の建築およびこれに伴う関連行為によつて、本件地域の風致・景観は回復の不可能な程度にまで破壊されてしまうことが明らかであり、他方、本件申請を是非とも認めるに足りるだけの合理的理由は存しないのあるから、被告が本件申請を不許可とした本件処分は、特別地域の風致・景観を厚く保護しようとする自然公園法の趣旨にも合致し、裁量権の範囲内の適法な処分である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち(一)、(三)および(四)は認めるが、(二)は争う。

2  同2は認める。

3(一)  同3の冒頭部分のうち、本件申請に対する許否の判断が被告の裁量に属することは認めるが、本件処分が被告の裁量権の範囲内のものであり適法であることは争う。

同3の(一)のうち、本件地域が弓ケ浜の海岸線の美観と相俟って卓越した景観を有し、起伏の激しい波蝕崖岬状の地形、天然の奇観である汐吹および天然記然物「手石の弥陀の岩屋」などで形成される伊豆地方特有の自然の風致・景観をほぼ原始的に維持しており、その風致・景観は富士箱根伊豆国立公園地域の核心的なものとして広く一般に認められていることは否認し、本件地域の現在の風致・景観は将来にわたつて維持される必要性の高いものであることは争い、その余の事実は認める。

(二)  同3の(二)の事実は認める。

(三)  同3の(三)は争う。

(四)  同3の(四)および末尾部分は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論(裁量権の逸脱・濫用)

被告のなした本件処分は、行政目的達成のため必要な最小限度の規制とはいえず、著しく比例の原則に反するとともに、公平の原則(平等原則)にも違反した差別的取扱いであつて、裁量権の範囲を逸脱しあるいは濫用した違法な処分である。

1(一)  自然公園法は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、もつて国民の保健、休養及び教化に資することを目的としており(法一条)、同法の適用にあたっては関係者の財産権を尊重するとともに、自然公園の保護及び利用と国土の開発その他の公益との調整に留意しなければならないのであるから(法三条)、行政庁が特別地域内工作物の新築等の許可・不許可の判断をするにあたつては、自ずと一定の制限があり、全くの自由裁量は許されないというべきである。

(二)  殊に、不許可処分は、申請者の所有権その地の財産権を大幅に制限するものであるから、行政目的である当該特別地域の風致・景観の維持のため必要な最小限度にとどめるべきであつて、それ以外の場合には行政庁は工作物新築等の申請に対し許可を与えるべき義務があると解すべきであり、行政庁が行政権発動の比例原則に反し、右の限度を超えて不許可処分をした場合には、当該処分は裁量権の範囲を逸脱し、または濫用した違法なものとなるというべきである。

そして、右の判断をするにあたつては、当該特別地域の風致・景観の特質を検討したうえ、当該工作物の設置がかかる風致・景観にどのような影響を与えるかを具体的に考察することが必要である。

これを本件についてみると、以下述べるように、本件地域はほとんど自然の原始性が失われているとともに、格別の美観を有しているわけでもなく、また本件建物は外観・構造等において周囲の風致・景観と調和するよう設計されているのであるから、本件処分は行政目的達成のため必要な最小限度の規制とはいえない。

2(一)  本件地域は、富士箱根伊豆国立公園第一種特別地域及び名勝「伊豆西南海岸」に指定されているが、これらの地域はいずれも相当に広い範囲に及ぶものであり、場所により風景の美しさの程度に顕著な差異が存するところ、右国立公園伊豆地域の核心的な地域としては、伊豆西南海岸を例にとれば、堂ケ島海岸、波勝海岸、石廊崎海岸が一般的に知られているのであつて、本件地域は、これらの地域と比較して景観において著しく劣り、地質的にも伊豆地方の特徴を顕著に有しておらず、伊豆の核心的な地域ということは到底できない、

即ち、本件地域に群生するウバメカシ、トベラ、ヤブツバキなどの植物は、本件地域あるいは伊豆海岸に特有のものではなく、全国各地の岩床地帯にほとんど分布しているありふれた植物であり、岩石も特に珍奇というほどのものではなく、さらに、天然記念物に指定されている「手石の弥陀の岩屋」は単なる岩穴であって、岩穴の中に入つて行くと正直な人間ならば阿弥陀の像を見ることができると言い伝えられているものであり、仮に右の仏像が学術的に多大の価値を有するとしても、本件建物の設置によりその価値が損われるというものではない。

また、本件地域は、第二次世界大戦の際に海軍の基地になつていたほか、段々畑や炭焼小屋などのため開墾されて一旦自然の原始性を喪失したのであるが、戦後三〇数年もの間放置されていたため樹木が自生しわずかに緑を回復したにすぎないいわゆる第二次自然といわれるものであり、青野川河口や本件地域の磯の汚濁も進んでいる。

(二)  本件地域の付近一帯、即ち小稲・弓ケ浜地区にはレストラン、ホテル、海の家、海港集落等国立公園特別地域の風致・景観にとつて必ずしも好ましいとはいえない劣悪な外観、構造の工作物が林立し、殊に本件申請地から約二〇〇メートルの至近距離にある南伊豆町手石地内主要地方道下田・石室・松崎線の海側の土地上には、約三〇〇坪の敷地に駐車場と建坪約四〇坪の二階建の建物からなるドライブイン「汐吹」が建築されて営業している。右ドライブイン「汐吹」と本件申請地とは、弓ケ浜方面から眺望すれば相当の広がりをもつて一体として目に映ずるものである。

(三)以上のように、本件地域は国立公園第一種特別地域及び名勝「伊豆西南海岸」に属するものの、その風致・景観は自然公園内に限らず全国の到る処で見受けられる極めてありふれたものであり、これに特別の保護に値するような貴重な特質を見い出すことは困難である。

3(一)  原告は、訴外株式会社松田商会の代表取締役であつて約三、六〇〇坪の広大な本件土地の実質上の所有者であるが(登記簿上は同訴外会社の所有名義である。)同地上に周囲の景観を配慮し、外部から目につかない海側にわずか建坪三七・八二坪の二階建居宅を新築しようとするものであつて、建物の外部の色彩を白またはアイボリーとして四囲の景観に照らし異和感を生じないようにするなど細心の注意をはらっている。

一方、本件申請地付近の地形に鑑みると、本件建物の建築にあたつては樹木の伐採、表土の掘削、資材運搬用道路の開設等若干の自然改変行為が必要とされるが、これらは一時的なものであつて、工事完成後に植林するなどしてもとの自然環境を回復することは十分可能であり、また建築あるいは資材の運搬の方法につき慎重に配慮することにより、本件地域の風致・景観に与える影響を相当程度回避することができる。

なお自然公園区域内における森林の施業については、昭和三四年一一月九日国発第六四三号各県知事あて国立公園部長通知によれば、第一種特別地域内における森林の伐採は、場合によつては蓄積している樹木の一〇パーセントまでは許されることがあるとされており、本件の場合において極くわずかの樹木の伐採さえも許さないとする合理的な理由は在しない。

(二)  原告は、本件申請地付近の自然環境を愛するが故に本件建物を老後病弱な妻とともに別荘として使用するべく本件申請をなしたのであるが、右申請が許可されたならば、伐採された樹木をもとに復するべく植林するほか本件地域の磯の汚れを清掃するなどして本件申請地付近の自然環境を改善するためあらゆる努力を払うつもりでいる。

人為的工作といえども、それが四囲の状況に調和して存在する場合には、自然の美を損うどころかむしろこれを引き立てる役創を果たすのであるから、本件建物の建築に際し、若干の改変行為が伴うにしても、長期的にみれば、本件申請地付近の自然環境の維持改善に望ましい結果を残すことになる。

4  このように、原告が本件申請地に四囲の景観に調和した本件建物を建築しこれを別荘として利用することは、原告の有する土地所有権の最小限の行使というべきであり、しかも本件地域は格別の美観も特質も有しない平凡な地域であつて、その風致・景観は右土地所有権の行使を許さないほどの卓越性を有しているわけでもないのであるから、本件申請を不許可にして原告の土地所有権の行使を実質上全く不可能ならしめる本件処分は、本件地域の風致・景観の維持のため必要な最小限度の規制とはいえず、比例の原則に反するものである。

5(一)  風致・景観は、相当の広がりをもつものであるところ、本件申請地からわずか二〇〇メートルの至近距離にはドライブイン「汐吹」が建築されてあり、同所から主要地方道下田・石室・松崎線を挟んだ向い側には弥陀レストハウス等劣悪な外観、構造の工作物の設置が許されており、また本件地域から尾根づたいの近隣地域には別荘群などがあり、弓ケ浜から逢の浜にかけてはホテル観水荘や虎屋の別荘などの建物が存在している。さらに西伊豆の堂ケ島ではホテル銀水荘の設置が許可されている。

(二)  右のように本件地域内あるいはその他の第一種特別地域において種々の工作物の設置が許可されているが、かかる劣悪な工作物の設置を放任しながら、本件建物のみを本件地域の風致・景観の維持に重大な支障を与えるものとして、本件申請を不許可にした本件処分はいわれのない差別的取扱いであり、公平の原則に反するものである。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論の冒頭部分は争う。同1の(一)は認める。

2  同2の(二)のうち、本件地域の付近一帯にレストラン、ホテル、海の家、海港集落等の工作物があること及び南伊豆町手石地内主要地方道の弥陀山トンネル入口付近の海側にドライブイン「汐吹」が建築されていることは認める。

3  同3の(一)のうち、本件土地が登記簿上訴外株式会社松田商会の所有名義であること、原告は同訴外会社の代表取締役であり、広大な本件土地上に外部の色彩を白またはアイボリーとする二階建居宅を新築しようとするものであることおよび本件建物の建築にあたつては樹木の伐採、表土の掘削、資材運搬用道路の開設等の改変行為が必要となることは認める。

4  同4は争う。

5  同5の(一)のうち、弓ケ浜から逢の浜にかけてホテル観水荘と虎屋の別荘があることおよび堂ケ島にホテル銀水荘が存在することは認める。(二)は争う。

七  原告の反論に対する被告の主張

1  本件地域の風致・景観は将来にわたつて維持される必要性の高いものであるのに反し、本件申請に生活必需的なものとはいえない別荘を新築しようとするものであるから、本件処分によつて保護しようとする法益とこれによつて原告が受ける不利益との調整という観点からしても、本件処分が比例の原則に反しないことは明らかである。仮に、原告が本件処分によつて通常生ずべき損害を受けるとするならば、自然公園法三五条によつて損失補償を受けることができるのである。

2  ドライブイン「汐吹」は、第一種特別地域内にあるが、主要地方道下田・石室・松崎線に面し、弥陀山トンネルの入口付近に位置しており、その敷地はもと畑地であつたのが、昭和四六年に右トンネルの貫通工事をした際、資材置場として使用されたもので、その跡地に右ドライブインが建築されたものである。この建築が許可されたのは、右の土地が本件申請地付近とはその風致・景観を異にしているうえ、すでに自然の原始性を失つており、建築工事に地形の変更を伴わず、風致・景観に与える影響がほとんどなかつたからである。

また、ホテル観水荘および虎屋の別荘は、同じく第一種特別地域にあるが、弓ケ浜と逢の浜の中間の道路沿いあるいは逢の浜の後背地にあつて、弓ケ浜からは山に遮られて直接望見しにくいところに位置している。そして、逢の浜は海岸線が特にすぐれていて、その後背地はやや趣きを異にしているのであるから、これらの建物が建築されている場所と本件申請地とが全く同じ自然的条件にあるということはできない。

すぐれた風致・景観を維持しようとする自然公園法の見地からすると、自然の美しさの程度に応じて場所により自然の風景地を保護する度合いに差異を設ける必要があるから、本件申請を不許可にした本件処分をもつて理由のない差別的取扱いであり、公平の原則に反するものということはできない。

第三証拠<省略>

理由

一  本件処分の存在

原告が昭和四八年一〇月一八日被告に対し、富士箱根伊豆国立公園第一種特別地域に指定されている本件土地上に本件建物を建築するべく自然公園法一七条三項一号の規定により、右国立公園特別地域内工作物の新築許可申請(本件申請)をしたところ、被告が昭和四九年四月一九日原告に対し、本件申請を許可すると同国立公園特別地域の風致・景観を維持するうえで重大な支障があるとの理由により、同日付静岡県指令四八観第一九-一一二九号をもつて本件申請を不許可とする本件処分をしたことは、当事者間で争いがない。

二  国立公園の風致・景観の保護

自然公園のうち国立公園は、「わが国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地であつて、環境庁長官が自然環境保全審議会の意見を聞いたうえ区域を定めて指定するもの」であるが(法二条二号、一〇条一項)、これを指定する国が土地の権利を取得し公物として一般の利用に供するものではなく、国立公園内における風致・景観を維持するために必要な限度において一定の行為を禁止または制限する地域制の公園である。従つて、ある地域が国立公園に指定されると、その区域内にある私有地は自然公園法の定めるところにより一定の公用制限を課せられることになるが、国立公園は比較的拡大な面積を占めていて地域により風景の美しさに優劣があるから、これに応じて自然の風景地を保護する度合い、即ち公用制限の程度に緩厳の差を設ける必要が生ずる。そこで、自然公園法は、公園計画に基いて、国立公園の区域を特別保護地区(法一八条)、特別地域(法一七条)および普通地域(法二〇条)に区分して、これに相応した保護を図つている。

特別保護地区は、国立公園の景観を維持するため特に必要があるときに指定されるものであり、「国立公園の精粋ともいうべき景観を有している地域であつて、すぐれた自然の景観を永遠に維持するため最も強力な行為制限を課せられている地域」である<証拠省略>。

特別地域は、特別保護地区に次いで自然を保護する必要性の高い地域であつて、風致を維持するために指定されるものであるが、風致維持の必要性の度合いから、さらに第一種特別地域、第二種特別地域および第三種特別地域に区分されている(自然公園法施行規則九条の二)。第一種特別地域は、特別保護地区に準ずる景観を有し、特別地域のうちでは風致を維持する必要性が最も高い地域であつて、現在の景観を極力保護することが必要な地域である(同規則九条の二-一号)。なお、普通地域は、特別地域に含まれない地域であつて、特別地域ほど強い行為制限を受けないところである(法二〇条)。

三  国立公園特別地域内工作物新築等の許可または不許可の処分の性質

自然公園法一七条三項は、国立公園特別地域内においては、工作物の新築等の行為は、環境庁長官あるいはその委任を受けた都道府県知事(法三八条、同法施行令二五条一号)の許可を受けなければ、してはならないと規定し、これらの行為を行政庁の許可にかからせているが、その趣旨は、国立公園特別地域内における自然の風致・景観を維持し、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の適正化を図るという公益的な見地から出たものであると解すべきである(法一条、一七条)。そして、右許可制度の趣旨・目的に照らし、かつ同法に右許可をするについての基準ないし要件を定めた規定が存しないことを考慮すると、右許可を与えるかどうかの判断は一応行政庁の裁量により決定さるべき事柄であるということができるが、他方、工作物新築等の不許可処分が本来自由である土地所有権の行使に大きな制約を加えるものであり、行政庁は、その裁量にあたつては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、国土の保全・開発その他の公益との調整に留意しなければならないことを併わせて考えると(法三条、自然環境保全法三条)右許可・不許可の判断は、行政庁の純然たる自由裁量に委ねられたものとはいえず、自然の風景地を保護し、その利用の適正化を図るという公益的見地から許可申請にかかる行為が当該特別地域における風致・景観のうち将来にわたつて保護されるべき価値を有すると認められるものの維持に支障を与えるものであるか否かにより決せられるべきものと解するのが相当である。

その場合、当該特別地域の風致・景観の特質を検討したうえ、申請にかかる行為およびこれに附随する関連行為が、当該地域の自然的条件と工作物の種類・規模・構造・外観等との関連において、その地域における風致・景観にどのような影響を与えるかを具体的に考察することが必要である。

そして、行政庁は、右のような裁量判断をするについては、自然公園法の前記目的と関係のない目的や動機に基づいて許可・不許可の処分をすることが許されないのはもちろん、右処分の判断その自体についても恣意にわたることは許されず、行政目的を達成するために必要な限度を超えて私有財産権に制約を加えるとか、何ら合理的ら理由がないのに特定の個人を差別的に取扱いこれに不利益を及ぼすとかして、その処命が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した違法なものとなるというべきである。

四  本件地域の風致・景観の特質等

1  次の(一)、(二)の事実については、当事者間に争いがない。

(一)  本件申請地は、主要地方道下田・石室・松崎線の海側にあり、急峻な小高い山並みが岬状の形態をなす通称「阿弥陀山」と呼ばれるところにあり、阿弥陀山一帯の本件地域は、富士箱根伊豆国立公園第一種特別地域に指定されているほか、文化財保護法に基づき名勝「伊豆西南海岸」にも指定され、阿弥陀山にある「手石の弥陀の岩屋」は同法によつて天然記念物に指定されていること及び本件地域にはウバメガシ、トベラ、ヤブツバキなどの樹高〇・五メートルないし三メートルの矮性化した暖地性植生(常緑樹)が群生していること

(二)  本件地域の付近一帯、即ち小稲・弓ケ浜地区にはレストラン、ホテル、海の家、漁港集落等の工作物が設置されていること、南伊豆町手石地内主要地方道下田・石室・松崎線の弥陀山トンネル入口付近の海側にはドライブイン「汐吹」が建築されてあること及び弓ケ浜から逢の浜にかけてはホテル観水荘と虎屋の別荘があり、堂ケ島にはホテル銀水荘が設置されていること

2  <証拠省略>を総合すると、

(一)  名勝「伊豆西南海岸」は、静岡県賀茂郡南伊豆町、松崎町、西伊豆町三町の全域と沿岸四〇〇メートルの全海域を含む地域からなり、石英粗面岩、石英安山岩、輝石安山岩及び凝灰岩を主とした地質関係のすこぶる複雑多様なところであり、伊豆半島中、波浪の最も激甚な部分であつて、小島、岬角、岩窟、小湾の出入りが多く変化に富んだ海岸風景を構成し、太平洋岸において稀にみる景勝地を形成しており、海岸は風景及び地質上、堂ケ島海岸、波勝海岸および石廊崎海岸の三区域に大別されていること

(二)  阿弥陀山は、南伊豆町の町木に指定されているウバメガシその他の天然の常緑樹が生い茂つた標高約四〇ないし五〇メートルの岬状の山であるが、阿弥陀山一帯の本件地域には、海岸線の一部にゴミが集積し、原生林の中に旧上水道タンク、阿弥陀堂の倒壊した屋根・柱および炭焼小屋の跡が残されており、また第二次世界大戦中、本件地域が海軍の基地に使用された際掘られた塹壕が崖下の部分に散見されるほかは、人工の工作物は存在せず、自然の原始性をほぼ維持していること、阿弥陀山の東側海岸にある天然記念物「手石の弥陀の岩屋」は、通称「弥陀窟」と呼ばれ、集塊岩中の断層に沿つて生じた古来より著名な海蝕洞窟であつて、白隠禅師の発見にかかるものとも伝えられており、入口より数メートル入ると洞は左折し洞内は暗黒となり、前面の岩壁に三個の仏像の如き影像があらわれ、これを弥陀の三尊の出現といつて礼拝するといわれていること、この仏像の如き影像は、別の鳩穴といわれる穴から入る光線が横手より斜めに凹凸のある正面の岩壁を照し、その光線のあたつた部分と影の部分との交錯状態によつて仏像類似の幻影をあらわすもので、光線のよく入る晴天の日に出現するといわれていること、さらに阿弥陀山の山中には「汐吹」と呼ばれる深さ三〇ないし四〇メートルのすり鉢型の谷があつて、東側海岸から海水が地下洞に注ぎ込み大きな音をたてて谷底に吹き出ており、天然の奇観ともいうべき姿をのぞかせており、また周囲の海岸には弁財天岬その他の小島が点在していること、本件地域を弓ケ浜あるいは逢の浜から望見すると岬状の阿弥陀山が天然の常緑樹と灰褐色の岩肌とを調和させて海上に優美な姿を現わしていること、そして、とくに弓ケ浜の渚に立つて海側を望見すると、阿弥陀山は、うつそうたる植生に蔽われた低くまるい稜線が岬の尖端に向い三度起伏し、末端に弁財天岬があつて、その風景を引きしめており、これが弓ケ浜と逢の浜の中間に所在する高く岩壁を露出した岬と相対して極めて美しい景観を作り出しており、この景観が南伊豆町手石付近ではとくに優れていること

(三)  本件申請地から西方二〇〇ないし三〇〇メートルの距離にあるドライブイン「汐吹」は、第一種特別地域内に存在するが、その敷地は、以前畑地であつたところが、昭和四七年頃、主要地方道下田・石室・松崎線の弥陀山トンネルの貫通工事が行なわれた際、右トンネルの入口付近に位置していたため、工事用資材や廃材などの置場として使用されたものであり、その跡地にドライブイン「汐吹」が建築されたのであるが、当時右土地はすでに自然の原始性を失っていたうえ、建築工事に地形の変更を伴わず、付近の風致・景観に与える影響が少なかつたためその建築が許可されたものであること

(四)  青野川を挟んで本件地域に隣接して続く弓ケ浜は、海岸線が弓型の曲線を描いたなだらかな砂浜であつて、白い砂浜と松林とが美しい海岸風景を形成しており、背後の山並みは阿弥陀山の稜線に連らなつていること、弓ケ浜は遠浅の海岸のため夏は海水浴場として利用されていること、岬状の岩山を隔てて弓ケ浜の東側に位置する逢の浜は、海岸線に迫つた断崖と急俊な形状をなす島々が優れた海岸美を構成していること、弓ケ浜および逢の浜の地域には、陸側に海岸舗装道路が設けられ、平地に人家や国民休暇村が建てられ、山の裾や山あいの部分には別荘および寮が散在していること、逢の浜にある日本興業銀行や虎屋の寮は、昭和四七年頃建てられたもので、同じく第一種特別地域内に存在するが、いずれも海岸道路の後背地にあつて海岸線の風致・景観に与える影響が少なかつたうえ、弓ケ浜からは東側の岩山に遮られて直接望見できないため、その建築が許可されたものであること、なお、ホテル観水荘は、弓ケ浜と逢の浜の中間に突出した岬のつけ根付近の森林の中にあり、弓ケ浜から海側を望見した場合、前記の美しい景観に支障を与えるものではないこと

(五)  西伊豆の堂ケ島にあるホテル銀水荘は、同様第一種特別地域内にあり、昭和四六年頃、堂ケ島付近が、自然公園法による国立公園利用計画に基く宿舎計画の対象となり、その公園事業の執行として建築されたものであること(法一七条七項一号)

以上の各事実が認められ、証人井上司郎の証言のうち右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  以上によれば、本件地域は、起伏の激しい波蝕崖岬状の蝕形とこれを取巻く小島、ウバメガシ等暖地性植生の群落、天然の奇観である汐吹および天然記念物「手石の弥陀の岩屋」などが渾然一体となつて美しく調和し、伊豆地方特有の変化に富んだ優美な海岸風景を形成しており、富士箱根伊豆国立公園伊豆地域中、伊豆西南海岸においては堂ケ島海岸、波勝海岸、石廊崎海岸に次いですぐれた自然の風景地ということができ、その風致・景観は将来にわたつて維持される必要性の高いものと評価されるべきである。

五  本件建物が本件地域の風致・景観に与える影響

1  次の(一)、(二)の事実については、当事者間に争いがない。

(一)  本件土地が昭和三〇年三月一五日に国立公園第一種特別地域に指定され、昭和四八年一月二三日、訴外秋本商事株式会社(同年一二月三日、株式会社松田商会と商号変更された。)が売買により本件土地を取得し、登記簿上同訴外会社の所有名義となつていることおよび原告が同会社の代表取締役であること

(二)  本件申請は、阿弥陀山の突端近くの地形勾配二五ないし三〇度の東向きの急斜面に床面積延約二三〇平方メートル、高さ約七メートル、外部の色彩白またはアイボリーの鉄骨造り二階建居宅を新築しようとするものであり、その敷地を宅地に造成するために樹木を約三〇〇平方メートル伐採し、表土を掘削することが必要とされるほか、本件建物の建築にあたつては資材運搬用道路の開設等の改変行為が必要となることおよび原告は本件建物を老後病弱な妻とともに別荘として使用するとして本件申請をしたこと

2  <証拠省略>を総合すると、

(一)  本件申請地忙本件建物を建築した場合、これを弓ケ浜あるいは逢の浜から望見すれば、前記1の(二)のような本件建物の規模・構造・外観及び申請位置からして、本件建物は阿弥陀山の山頂付近にその全体又は一部の姿を現わすに至ること

(二)  本件建物の建築に伴う関連行為についての申請内容は、生活用道路の計画については、弥陀山トンネルの北側登り口から、阿弥陀山の尾根づたいに天然の奇観「汐吹」の南側に沿つて阿弥陀堂跡付近まで至る幅員五〇ないし一〇〇センチメートルの既設公道の終点付近から、本件申請地に到達する幅員七〇センチメートル、長さ二一〇メートルの道路を新設しようとするものであり、雑木を約七〇本切り倒して人が歩行できる程度の山道を開設し、また道路下に水道を埋設するため幅約四〇センチメートルをコンクリート打にするとされていること、次に資材の運搬については、右生活用道路は幅員が狭くて資材運搬用道路として使用できないため、資材は船で海上から運び、本件申請地下の浜に陸揚げし、索道を設けて申請地まで運搬することとし、表土を掘削した残土の処理は量を三五立方メートル程度とみて申請地の谷間の樹木の間に敷いてならすとされていること、水道は南伊豆町の町水道の引込みとし、光熱の補給方法は、全て電力とし、東京電力が電柱を新設して本件申請地に送電するとされていること、さらに生活汚水は溜を設置してごみを除去して海岸に放水し、下水は普通浄化槽で処理したうえ海に流すものとされていること、また工事終了後は新たに樹木を植栽するとされていること

(三)  当裁判所の検証において、本件申請にかかる生活用道路の予定地を辿つたところでは、既設公道は阿弥陀堂跡付近で終点となつており、同所から北方に若干進んだ地点で原生林の繁茂のため見通しがきかなくなり、本件申請地に到達することが不可能であつたこと、仮に右予定地に道路を設置できたとしても、急斜面を登り降りしなければならず生活用道路としては不適当であること、阿弥陀山北側の入江にある砂浜から樹木を踏み分けるなどして申請地に登つていく道路があるが、これを生活用道路として使用するには道路自体の整備が必要であり、樹木の伐採が不可避であること、本件申請では、工事終了後に樹木を新たに植栽するとしているだけであつて、工事によつて損われる自然の原始性を回復するための具体的な修景計画が立てられていないこと

以上の各事実が認められ、原告本人尋間の結果中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上によれば、本件申請地に本件建物が建築されることによつて、阿弥陀山の山頂付近の樹木は相当数伐採され、その表土は掘削されて、同地上には高さ約七メートルの二階建居宅が姿を現わすことになり、加えて生活用道路や資材運搬用索道の開設、水道及び電信柱の設置等の関連行為により、本件地域の自然の原始性は害され、現在の風致・景観は著しく毀損されることが明らかである。

六  原告の主張に対する判断(本件処分の適法性について)

原告は、本件処分は、行政目的達成のため必要な最小限度の規制とはいえず、著しく比例の原則に反するとともに、公平の原則(平等原則)にも違反した差別的取扱いであつて、裁量権の範囲を逸脱しあるいは濫用した違法な処分であると主張するが、前記のように、本件申請にかかる行為を本件地域の風致・景観の特質と本件建物の種類・規模・構造・外観等との関連において考察すれば、本件建物の建築及びその関連行為が本件地域の将来にわたつて保護されるべき価値を有する風致・景観の維持に重大な支障を与えるものであることは明らかであり、

1  本件地域の風致・景観が前記のとおり保護されるべき必要性の高いものであるのに比し、原告は本件申請地に老後のため個人の別荘を新築しようとするものであつて、それ自体公共性を有するものではなく、また本件建物を別荘として使用する場合、その自然的条件からみて、本件建物への往来や生活物資の搬入に困難を来たし、車輌の通行しうる道路が設置されない限り、老人や病弱な者の居住には多くの不便が伴うものと認められ、その意味で果して本件土地が老後のための別荘地として、適するのかいささか疑問があり、これによつて本件地域の風致・景観が毀損されることを考えれば、原告がその主張のとおり本件土地の自然環境に深い愛着を抱いていることを十分考慮に入れても、本件申請が許可されないとしてもやむを得ないものがあるといわなければならない。

一方、自然公園法は、同法一七条三項の許可を得ることができないために損失を受けた者に対し通常生ずべき損失を補償する旨規定し、その代償措置を講じている(法三五条)。

このような事情のもとにおいて、被告が本件申請を不許可とする本件処分をしたことは、すぐれた自然の風景地を保護しその適正な利用を図るという自然公園法の目的を達成するために必要な限度にとどまるものというべきであつて、比例の原則に反するということはできない。

2  前記のとおり、本件申請地から西方二〇〇ないし三〇〇メートルの距離にはドライブイン「汐吹」が存在し、弓ケ浜から逢の浜にかけては人家や別荘、ホテル、寮などの建物が建築されており、また堂ケ島にはホテル銀水荘が設置されているが、これらの地域に工作物の設置が認められたのは、当該地域がすでに自然の原始性を失つており、工事に地形の変形を伴わず、また美しい海岸線から離れた後背地にあつて海岸線の風致・景観に与える影響が少ないとか、あるいは公園利用宿舎計画に基づく公園事業の執行として行われたとかの事情があつて、許可をする合理的な理由や必要性が存したのであるから、被告がこれらと事情を異にする本件申請につき不許可の処分したからといつて、いわれのない差別的取扱いであり、平等原則に反するということはできない。

3  以上のように、被告のなした本件処分は、すぐれた自然の風景地を保護し、その適正な利用を図る自然公園法の趣旨・目的に沿う適法な処分であつて、合理性をもつ判断として許容された限度内のものであるから、これを以て裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した違法なものということはできない。

七  結論

以上のとおりであるから、本件処分の取消しを求める本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 人見泰碩 小野剛)

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